a short short story.
それは暑い、夏の夜のことだった。 感覚を狂わした蝉が遠くで鳴き、じっとりとした空気を助長させていた。
湯上がりで火照った身体に、扇風機の風を浴びせながら、 熱さが引けない。 「だらしのない格好」
同じように火照った身体をバスローブで包んだ彼女が呆れたように笑う。
ああ、今度は頭がクラクラする。 「ねぇ、今日は花火大会なんですって」
彼女の言葉に時計をみやるが、長針は21時をとうに過ぎていた。 しかし、あの遠くから響く花火の音を聞いた記憶がない。 「大きな建物に入っていたからじゃない?ほら、今日は暑かったから」
けども、浴衣で着飾った女の子をみた記憶もない。 「今日の夕刻は一緒にDVDを観ていたじゃない」
ああ、そうだった。 あの映画のラストはどんなだった?
ふと、肩先がひやりとした。 「ねぇ、いくら暑いからってそのままじゃあ、風邪を引いてしまうわ」 「あ、ああ・・・そうだね」
暑さでボンヤリしているのだろうか。 「暑いとだめだね。ボンヤリしてしまう。君も・・・・・・」 気をつけた方がいいと、言いかけて、彼女の名前が出てこないことに気づいた。 「これは、夢かしら?」 意味ありげに囁くと、「ニッ」と彼女が笑った。
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