a short short story.
残暑  .
夏の夕暮れの空は、
青く明るいのに、切ない匂いがする。

自転車で土手を駆ける。 背の高い、草の匂いがする。

太陽の光を反射して、川面が光る。

息を切らして、坂道を駆けあがる。

西に落ちていく太陽がまぶしい。

「今日はどこいく?」

山か、川か。
そう、僕の前を行く人に問う。

振り返った彼は、瞳を細め、破顔すると気持ちのよい声で答えた。

「かわ!!」

彼は、町では見たことのない人間で、
同い年の僕らと違い小ぎれいな格好をしていた。
仲間は彼と距離を測りかねていたが、
好奇心が勝った僕はなにも考えず遊んでいた。

きっと、珍しかったのだ。

子供特有の明け透けない考え方や反応はなく、 彼はとても落ち着いていた。
Tシャツに短パンという出で立ちの僕らとは違い、
彼はぴっしりとしたポロシャツなんてものを着ていた。
親父が着ていたよれたポロシャツなんかとは別物だった。

「なあ、生まれはどこなんだ」

「・・・生まれは、ここだよ」

「うっそだぁ。顔さ見たことねぇ」

「普段はここじゃないところに住んでいるから」

「都会?」

「・・・・・・そんな感じ」

「いいなぁ、都会」

「そんなことないよ」

「夏、終わったらまた都会に行くんか」

「たぶん」

「したら、また来年も遊べんな!」

「……ああ、そだな」

今思えば、あのときの彼はとても不思議な顔をしていた。
けども、子供だった僕はその表情の意味が和からなかった。
単純に、西日がまぶしいのだと、そう思っていた。

「来年、また・・・・・・」


夏休みが終わる頃、彼はそういって町から姿を消した。
それ以来、彼とは会っていない。
僕は大きくなると、町を出ていった。

ふとあの夏のことを思い出した。
たったひと夏だったけど、一緒に遊んだ友人のことを。

そして、同じように陽を浴びていた筈なのに、
彼の肌は僕らとは違い、白くきめ細やかだったことを。


彼は今も元気だろうか。